インバーターは、電力変換装置として幅広い用途で利用されています。ただ、さまざまな種類の機器があるため、用途に合った使用が大切です。
本記事では、インバーターの基本的な役割や仕組みから、コンバーターとの違い、そしてインバーターのメリット・デメリットまでを分かりやすく解説します。
目次:
インバーターとは
インバーターとは、直流電力を可変電圧・可変周波数の交流電力に変換する装置です。
ここではインバーターの役割と仕組み、コンバーターとの違いを紹介します。
インバーターの役割
インバーターの主な役割は、電圧や周波数を自在に制御し、モーターの回転速度を最適化することです。
インバーターがない場合、モーターは一定の速度でしか回転せず、速度制御ができません。しかし、インバーターを使用することで、電圧や周波数を調整できるようになるため、エネルギーの無駄を省き、省エネ効果を高められます。
また、負荷変動にも柔軟に対応するため、機器の寿命を延ばします。さらに、機械の繊細な制御や、機器の軽量化・小型化にも役立ちます。
インバーターの仕組み
インバーターは、大まかに3つの主要部分から構成されています。
- コンバーター回路:供給される交流電流(一定の電圧・周波数)を直流電流に変換する
- コンデンサー:電気を蓄えたり放出したりすることで、電圧を安定させる
- インバーター回路:コンデンサーから供給された直流電流を、所定の電圧や周波数の交流電流に変換する
このようにインバーターは3つの主要部分の連携によって、交流電流を直流電流に変換します。さらに、可変電圧・可変周波数の交流電流に変換することで、モーターの回転速度を自由に制御します。
コンバーターとの違い
インバーターとコンバーターはどちらも電流を変換する装置ですが、変換の方向が異なります。
インバーターは直流電力を可変電圧・可変周波数の交流電力に変換することで、モーターの回転速度を細かく制御できる点が特徴です。一方、コンバーターは交流電力を直流電力に変換し、安定した電力を供給する役割を担います。
インバーターのメリット・デメリット
ここからはインバーターのメリットとデメリットを紹介します。
インバーターのメリット
インバーターのメリットは次の3つです。
- 機械の繊細な操作の実現
- 部品の劣化軽減
- 機器の軽量化や小型化
詳しく解説します。
機械の繊細な操作の実現
インバーターを使用することで、機械の回転速度やトルクを細かく制御できるため、繊細な操作が可能になります。
インバーターがない機械は「オンかオフか」「出力1200Wか500Wか」といった、段階的な調整ができない極端な動作しかできません。しかし、インバーターがあれば、速度を緩やかに変えたり、動作の強度を段階的に強くしたり弱くしたりすることが可能です。
部品の劣化軽減
インバーターは急激な電流変化を抑え、スムーズな加速・減速を可能にします。機械にかかる負荷を軽減し、モーターや軸受などの部品の摩耗や劣化を抑制します
また、インバーターを内蔵した機器は、無駄な動きや過度な負荷がかかる時間を減らすことが可能です。例えば、エアコンやポンプなどでインバーターが使用されると、必要な分だけ稼働するようになるため、スムーズな動作が可能になり、部品の寿命が延びます。
機器の軽量化や小型化
インバーターを使用することで、機器の軽量化や小型化が可能になります。インバーターが従来の機器に必要な変圧器やリアクトルなどの大型部品を不要にするためです。
変圧器やリアクトルは電圧や電流を調整するために使用される部品ですが、サイズが大きく重量もあります。インバーターは機能を電子回路で代替するため、機器全体のサイズと重量を削減できます。
インバーターのデメリット
一方、インバーターには次のようなデメリットもあります。
- コストの増加
- ノイズの発生
詳しく解説します。
コストの増加
インバーターの導入には、コストの増加が伴います。インバーター自体が1台あたり数万円と通常の電化製品よりも価格が上がるためです。特に、インバーターが複雑な制御を行う場合、回路設計にかかるコストも増えます。
ノイズの発生
インバーターは、スイッチング素子を高速でオン・オフすることで電圧や周波数を制御するため、高周波ノイズが発生します。ノイズは電磁波として周囲に放射されたり、電源線や信号線を伝って他の電子機器に影響を与えたりすることがあります。
具体的には、ラジオやテレビの受信障害、パソコンや通信機器の誤動作、医療機器への影響などが考えられます。特に、精密な電子機器を使用する環境では、インバーターのノイズ対策が重要となります。
インバーターの活用例
インバーターはさまざまな場面で活用されています。ここでは5つの活用例を紹介します。
ベルトコンベア
ベルトコンベアでは、インバーターが搬送速度の制御に活用されています。インバーターがない場合、ベルトコンベアは急加速と急停止を繰り返すため、搬送物が落下したり、モーターやベルトなどの部品に大きな負荷がかかったりすることがあります。また、作業者が巻き込まれるなどの事故のリスクも高まります。
一方、インバーターによってモーターの動きを制御することで、コンベアはゆっくりと動き始め、徐々に一定のスピードに達し、停止時も急停止せずに止まります。部品の寿命を延ばすだけでなく、作業者の安全を確保できます。
クイックスタートでシンプルな設備や装置に最適
インバーター Altivar ATV12
小型~中型装置向けに最適、同期モーターにも対応
インバーター Altivar ATV320
エアコン
従来のエアコンは、室温が設定温度に達するとコンプレッサーの運転が完全に停止し、再び設定温度を超えるとフルパワーで運転を再開していました。
インバーターがあると室温の変化に応じてコンプレッサーの回転速度を細かく調整することで、常に安定した温度を保ち、省エネ性能を高めています。設定温度に近づくとコンプレッサーの回転速度を落とし、設定温度から離れると回転速度を上げることで、室温を一定に保ちます。
ポンプ
ポンプでは、インバーターは流量や圧力の制御に活用されています。従来のポンプは、必要な流量や圧力に関わらず、常に一定の速度で動作していました。そのため、流量や圧力を調整するには、バルブやダンパーなどで流路を絞る必要があり、エネルギーの一部が熱として無駄に消費されていました。
一方、インバーター内蔵ポンプは、モーターの回転速度を調整することで、流量や圧力を自在に制御できます。必要な分だけの流量や圧力に合わせてポンプを運転できるため、エネルギーの無駄を省き、大幅な省エネ効果が得られます。
クイックスタートでシンプルな設備や装置に最適
インバーター Altivar ATV12
小型~中型装置向けに最適、同期モーターにも対応
インバーター Altivar ATV320
あらゆるプロセス制御におけるファンやポンプ、コンプレッサーといった気体・流体アプリケーション制御に特化 同期モーターにも対応 ※110~2600kWはインバーター盤の提供も可能
インバーター Altivar ATV600
エレベーター
エレベーターでは、インバーターがかごを上下させるモーターの速度制御に活用されています。エレベーターの巻上機の回転速度を制御し、人が乗り降りするカゴの昇降速度を細かく制御しています。
従来のエレベーターは、モーターのオン・オフのみで速度制御を行っていたため、加減速時の揺れや騒音が問題となっていました。
一方、インバーターを使用することで、モーターの回転速度を滑らかに変化させ、加速・減速時のショックを軽減し、快適な乗り心地を実現できます。また、停止階の精度も向上し、目的階に正確に停止できるため、安全性も高まります。
空調ファン
従来の空調ファンは風量調節が「強・中・弱」など数段階に限られていました。しかし、インバーターを使用することで室内の温度や湿度、人の数などに合わせて、最適な風量で運転することが可能になりました。
さらに、空調ファンにインバーターを使用すると、モーターの速度を変えることで効率的な冷暖房を実現できます。設定温度に合わせてモーター出力が調整されるため、常にフルパワーで運転する必要がなくなり、快適な温度を維持しつつエネルギー消費を削減できます。
クイックスタートでシンプルな設備や装置に最適
インバーター Altivar ATV12
小型~中型装置向けに最適、同期モーターにも対応
インバーター Altivar ATV320
あらゆるプロセス制御におけるファンやポンプ、コンプレッサーといった気体・流体アプリケーション制御に特化 同期モーターにも対応 ※110~2600kWはインバーター盤の提供も可能
インバーター Altivar ATV600
撹拌(かくはん)機
インバーターは撹拌機にも用いられています。インバーターが搭載されていない場合、一定の速度でしか撹拌できません。インバーターが導入されていると、材料の粘度や工程に合わせた速度で撹拌することが可能です。
例えば、粘度の高い材料の場合、低速でじっくりと撹拌する必要がありますが、インバーターを使用することで、低速での安定した回転を実現できます。また、初期段階では高速で撹拌し、材料が均一に混ざり合ったあとは低速で撹拌するといった、きめ細かな制御も可能です。
小型~中型装置向けに最適、同期モーターにも対応
インバーター Altivar ATV320
あらゆるプロセス制御における定トルク制御アプリケーションに特化 同期モーターにも対応 ※110~2600kWはインバーター盤の提供も可能
インバーター Altivar ATV900
インバーターの貢献が期待される技術
インバーターはさまざまな場面で活躍しています。ここではインバーターの貢献が期待される技術として「スマートグリッドやメガソーラー」と「パワーデバイス」について解説します。
スマートグリッドやメガソーラー
スマートグリッドは、ITとIoT技術を使ってリアルタイムの消費電力を把握し、効率的に送電するシステムです。例えば、電気自動車には、バッテリーからの直流電流を交流電流に変換するためにインバーターが必要不可欠です。
また、メガソーラーでも、太陽電池からの直流電流を一般的な交流電流に変換するためにインバーターが使用されます。太陽光発電システムは大規模化が進み、メガソーラーのような大規模な発電所が建設されていますが、これらの発電所からの電力を電力系統に送電するためには、インバーターによる電力変換が欠かせません。
パワーデバイス
パワーデバイスはインバーターの心臓部とも言える重要な部品であり、電力の変換や制御を行う半導体素子です。従来のパワーデバイスは主にシリコンで作られていましたが、電力損失が課題でした。電力損失はインバーターの効率を低下させ、発熱による冷却装置の必要性や、機器の寿命短縮につながります。
現在、シリコンに代わる新素材として、電力損失が少ない炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)の開発が進んでいます。新素材による次世代パワーデバイスは、従来のシリコン製デバイスよりも電力損失が少なく、高温での動作が可能であるため、インバーターの効率を飛躍的に向上させることが期待されています。
しかし、新素材は製造コストが高いため、普及にはまだ時間がかかる見通しです。
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