目次
1. リニア搬送とは?1.1 リニア搬送とは1.2 リニアモーターの動作原理1.3 リニア搬送システムの構成(例: シュナイダーエレクトリック製)
2 リニア搬送システムのメリット2.1 生産性の向上2.2 レイアウトの柔軟性2.3 省スペース設計2.4 位置決め搬送精度
3. 製造ラインにおけるリニア搬送のアプリケーション別導入例3.1包装工程(食料品・医薬品の包装機)3.2 充填工程(化粧品や消費財、飲料などの液体)3.3 電子部品組立加工搬送
4. リニア搬送システムの選び方4.1 搬送対象物の重量と大きさ4.2 搬送速度4.3 搬送精度4.4 レイアウト変更、メンテナンスのしやすさ4.5 放熱性4.6 メーカーのサポート体制
5. リニア搬送システムの活用事例5.1リニア搬送システムとロボットの組み合わせ5.2リニア搬送システムとデジタルツインの組み合わせ
6. 製品紹介6.1 シュナイダーエレクトリック製リニア搬送システム Lexium™ MC126.2 デジタルツインソフトウェアスイート EcoStruxure Machine Expert Twin
はじめに
リニア搬送は、磁力によって駆動されるキャリアを用いてワークを搬送するシステムで、従来のコンベア搬送に比べて圧倒的な性能と柔軟性を備えています。製造ラインの効率化と自動化を飛躍的に進め、次世代のモノづくりを支える革新的な技術です。本記事では、リニア搬送とは何か、従来の搬送コンベアとの比較、リニア搬送がもたらすメリット、導入事例、選び方などを詳しく解説し、リニア搬送が製造ラインの未来をどのように変革していくのかを明らかにします。
1. リニア搬送とは?
1.1 リニア搬送とは
リニア搬送システム(リニアトラックとも呼ばれます)とは、磁石が搭載されたキャリアを用いてワークを搬送するシステムです。ガイドレール上を滑らかに移動するキャリアは、高精度な停止と高速搬送を実現します。
磁力と精密制御技術を組み合わせることで、従来の搬送コンベアでは実現できなかった高精度な搬送を実現します。
1.2 リニアモーターの動作原理
リニア搬送システムの心臓部とも言えるのが、リニアモーターと呼ばれる駆動装置です。リニアモーターに搭載されているコイルから発生する磁場と、キャリアに搭載されている永久磁石の磁力相互作用を利用して、キャリアをレール上で滑らかに移動させます。リニアモーターの動作原理は以下の通りです。
1. コイルに電流を流すと、コイルが発生する磁場と永久磁石の磁場が相互作用し、キャリアに力が働きます。2. この力によって、キャリアがレール上を加速します。3. 電流を制御することで、キャリアの速度を制御することができます。4. 電流を制御することで、キャリアを停止状態で固定することも可能です。1.3 リニア搬送システムの構成(例: シュナイダーエレクトリック製)
MC12マルチキャリアリニア搬送システムは、以下の3つの主要コンポーネントで構成されています。
ガイドレール:キャリアが走行するレールです。ガイドレールには、高精度な加工が施されており、スムーズな移動を実現します。
セグメント:リニアモーターの役割をしており、キャリアを駆動させるモーターです。セグメントリニアモーターは、コイルから発生する磁界と永久磁石の磁力相互作用を利用して、キャリアをレール上で滑らかに移動させます。
キャリア:ワークを載せて個別に制御して動かすことができる可動子部分がキャリアです。キャリアには、エンコーダーマグネットと永久磁石が組み込まれており、レール上を滑らかに移動します。
2. リニア搬送システムのメリット
2.1 生産性の向上
高速でキャリアを個別に加減速させることができるリニア搬送システムは、生産量の向上に寄与します。また、キャリアを個別に動かすことができる特性を生かして、ステーション間の移動速度を速めることで、待機時間を減らして、時間あたりの生産性を高めることができます。シュナイダーエレクトリック製MC12マルチキャリアは、ストレート部分で4m/秒、カーブ部分で3m/秒の最高速度を出すことができます。
2.2 レイアウトの柔軟性
リニア搬送システムは、曲線や複雑な搬送システムのレイアウト設計にも最適です。従来の搬送コンベアは、設置場所の制約があり、レイアウトの自由度が低かった点と比較すると、大きな利点となります。 シュナイダーエレクトリック製MC12リニア搬送システムは、モジュール構造を採用しており、セグメントと呼ばれる駆動部、ガイドレールレール、キャリアを組み合わせることで、自由なレイアウトを構築することができます。品種の入れ替えによる搬送トラックレイアウトの変更にも柔軟に対応することができます。
2.3 省スペース設計
リニア搬送システムは、従来の搬送コンベアに比べて省スペースが実現可能です。キャリアが自由に加減速することができる特性を生かして、ステーション間の速度を速め、バッファースペースを削減することができます。そのため、限られたスペースでも効率的に搬送システムを構築することができ、工場レイアウトの自由度を高めることができます。シュナイダーエレクトリック製MC12マルチキャリアでは、従来の搬送コンベヤに比べて半分程度のスペースで装置の設計が実現できます。
2.4 位置決め搬送精度
リニア搬送は、リニアモーターによる精密な制御により、従来の搬送コンベアに比べて圧倒的に高い位置決め精度を実現します。ワークを正確な位置に停止させることができるため、精密な組み立て作業や検査工程などに最適です。シュナイダーエレクトリック製MC12マルチキャリアは、ストレート部分で最新のソフトウェアを使って校正をかければ、±0.02 mmの高精度の位置決めが可能です。
3. 製造ラインにおけるリニア搬送のアプリケーション別導入例
近年では技術革新により、特に高速・高精度な搬送が求められるアプリケーションにおいてリニア搬送が使用されています。以下では、リニア搬送システムが活躍する製造業の具体的な用途例を幅広く紹介します。
3.1包装工程(食料品・医薬品の包装機)
繊細且つ高速な動きが要求される包装機では、高速で位置決めができるリニア搬送システムを採用することにより、生産性が向上します。複数キャリアを組み合わせることでワークを反転させるなど 、今までの搬送コンベアになかった新しい動きを実現することができます。多品種を搬送できるリニア搬送システムで、段取り替え時間を削減します。
課題:従来のコンベア搬送では、以下の課題がありました。 生産量の制限、段取り替え時間の発生、コンベヤの動きの制約がありました。複雑な包装工程に対しては、自動化できず人が手作業で包装する必要がありました。
ソリューション:リニア搬送システムを導入することで、これらの課題を解決することができます。複数キャリアを使って、各工程に最適なタイミングで複数のワークを作業ステーションに配置したり、カム機構やラックアンドピニオンを組み合わせて、新しい動きを実現することができます。日用品メーカー様向けに自動包装機を開発・販売するオリオン機械工業株式会社オリオン機械工業はシュナイダーエレクトリック 製MC12マルチキャリアを導入した自動包装機を開発し、従来人の手で行っていた日用品メーカー様の包装工程を自動化しました。自動化を実現したことにより、高い生産性を実現することができました。 Stop & Goを繰り返しても全く発熱しないMC12マルチキャリアを導入することで、理想的な動作と精度を実現しています。
オリオン機械工業 MC12マルチキャリア導入事例
Unilogo社、ポーランド MC12マルチキャリアを導入して生産の柔軟性と効率を上げた事例
3.2 充填工程(化粧品や消費財、飲料などの液体)
多品種のボトルを段取り替えすることなく、一台の装置で搬送できます。また、外部軸同期を利用して、機械をリニアの動きに追従させることで、搬送しながらのキャッピングが可能です。これにより、容器の待機時間が不要になるため、生産性向上と省スペースを実現することができます。液体飛び散り防止制御(アンチスロッシュ)機能を使うことで、液体が飛び散ることなく、高速で液体物を搬送することができます。
課題:従来のコンベア搬送では、生産性や品質、充填精度に課題がありました。生産性: 液体が飛び散らないよう搬送速度の制限、非効率な搬送ルート、停止位置のずれによるキャップシールの位置ずれ、充填およびキャッピング時の製品の待ち時間により生産性が低下していました。 品質: 容器への傷や汚れ、充填精度の低さにより、品質が低下していました。多品種少量生産:コンベア搬送は柔軟性に乏しく、ライン設計変更が難しかったため、多品種少量生産に向きませんでした。
ソリューション:リニア搬送システムを導入することで、これらの課題を解決することができます。高速かつスムーズな容器搬送により、生産性を大幅に向上させることができます。外部軸同期を利用して、機械をリニアの動きに追従させることで、搬送しながらのキャッピングが可能です。これにより、容器の待機時間が不要になるため、生産性向上と省スペースを実現することができます。高精度な停止とスムーズな移動により、容器への傷や汚れを防ぐことができます。また、高精度な位置決め精度により、キャップのシール位置のずれが生じないため品質を向上させることができます。高精度な充填システムを使用することで、充填精度を向上させ、品質を安定させることができます。液体飛び散り防止制御(アンチスロッシュ)機能を使うことで、液体が飛び散ることなく、高速で液体物を搬送することができます。モジュールタイプのリニア搬送システムは、簡単にカーブや分岐、直線部分を変更可能で、柔軟にライン設計を変更可能です。製品に合わせて自由な設計が可能です。また、メカ的な段取り替えが不要なため、多品種の容器を一台のリニア搬送システムで搬送することができます。 組み合わせることで、ワークを反転させるなど
3.3 電子部品組立加工搬送
電子部品はデリケートであるため、部品へのダメージを考慮しながら効率的に生産することが重要です。
課題:従来のコンベア搬送では、生産性や品質、に様々な課題がありました。生産性: 搬送速度が遅く、非効率な搬送ルートやムダな動きにより、生産性が低下していました。品質: 部品へのダメージや歩留まりの低さが発生していました。ソリューション:リニア搬送システムを導入することで、これらの課題を解決することができます。高速かつ高精度な位置決めができる部品搬送により、生産性を大幅に向上させることができます。高精度な停止と低振動により、部品へのダメージを最小限に抑え、歩留まりを向上させることができます。工程間の搬送速度を速めることで、待機時間をなくし、生産性を高めることができます。4. リニア搬送システムの選び方
製造ラインに最適なリニア搬送システムを選ぶためには、以下のポイントを考慮する必要があります。
4.1 搬送対象物の重量と大きさ
リニア搬送システムは、搬送対象物の重量と大きさに応じて、必要なキャリアとガイドレールを選ぶ必要があります。重量が大きいワークを搬送する場合には、可搬重量が大きく高強度なキャリアとガイドレールが必要となります。
4.2 搬送速度
必要な搬送速度は、生産性や搬送距離によって異なります。高速搬送が必要な場合は、高速に対応したリニアモーターを搭載したシステムを選ぶ必要があります。
4.3 搬送精度
必要な搬送精度は、ワークの形状や寸法、加工工程によって異なります。精密な組み立て作業や検査工程が必要な場合は、高精度な停止とスムーズな移動を実現できるシステムを選ぶ必要があります。
4.4 レイアウト変更、メンテナンスのしやすさ
シンプルなパーツで構成されており、モジュール式のリニア搬送システムを選択することは重要です。搬送ルートや設置スペースの制約に応じて、柔軟に対応することが出来ます。多品種少量生産の場合も同様です。曲線や分岐、立体的な搬送ルートにも対応できるリニア搬送システムは、複雑な搬送システムにも最適です
4.5 放熱性
運搬する製品、部品が食品等の熱に弱いデリケートなものである場合、放熱性の高いフレームを使用したリニア搬送システムを選択する必要があります
4.6 メーカーのサポート体制
リニア搬送システム導入において、メーカーのサポート体制は非常に重要です。国内では導入はまだ進んでおらず、ノウハウを持つメーカーによる積極的なサポートが導入の成否を決定します。導入検討する際はメーカーによるサポート体制を見極めることが非常に重要です。シュナイダー製MC12マルチキャリアでは、2.2kg可搬、10kg可搬重量を持つ2種類のキャリアのラインナップがあります。また、このキャリアを組み合わせて更に大きい可搬重量にも対応することができます。最高速度4m/秒の高い搬送速度、最新のソフトウェアでの校正で実現できる±0.02 mm の高い位置精度を実現することができます。また、モジュール構造を採用しており、自由なレイアウトを作成することができます。生産方式に合わせて、レイアウトを柔軟に変更することができます。放熱性に優れたアルミフレームをセグメントに採用していること、クラス最大120Nの推力を持っているため、少ない電力で加減速をすることができ、発熱をしないことが特徴となっています。外資系企業にも関わらず、日本企業を母体にしたサポート体制とノウハウを持つ日本人技術者が、プログラム作成から導入調整まで親身になってサポートする体制を持っています。
5. リニア搬送システムの活用事例
リニア搬送に、近年注目を集めるロボットとデジタルツインという2つの技術を組み合わせることで、大幅に生産性と効率性を高めることが出来ます。
5.1リニア搬送システムとロボットの組み合わせ
リニア搬送システムと、関節アームやエンドエフェクタを持ち、様々な作業を行うことが可能なロボットを組み合わせることで、搬送と作業を一体的に自動化し、より高度な生産ラインを構築することが出来ます。
5.1.1 リニア搬送システムとロボットの組み合わせがもたらす利点
柔軟な搬送と高精度な作業の融合: リニア搬送による柔軟な搬送とロボットによる高精度な作業を組み合わせることで、複雑な形状のワークや多品種少量生産にも対応することができます。省スペース・高効率なシステム構築: リニア搬送の省スペース性とロボットの柔軟性を活かすことで、限られたスペースでも効率的なシステムを構築することができます。ロボットのピッキング場所ではリニアを低速で動かし、ピッキング以外の搬送の部分では速く動かすことで、生産性を向上することができます。
5.1.2リニア搬送システムとロボットの組み合わせの活用事例
リニア搬送システムにおけるロボットの具体的な例としては、以下のものがあります。組み立て作業: ネジ締めや部品の挿入など、精密さを要求される組み立て作業を自動化することで、作業精度と品質の向上を実現します。検査・検品: 製品外観や寸法などを自動的に検査し、不良品を判別することで、品質管理の強化とコスト削減に貢献します。包装・パレタイズ: 製品を梱包し、パレットに積み込む作業を自動化することで、作業負荷の軽減と安全性の向上を実現します。機械加工: 切削や研磨などの工作機械からの搬送工程を自動化することで、加工精度と生産性の向上を実現します。キャッピング: 瓶や容器に蓋をする作業を自動化することで、作業精度と生産性を向上させ、品質管理を強化することができます。充填: 液体やペーストなどを容器に充填する作業を自動化することで、作業精度と生産性を向上させ、無駄を減らすことができます。シュナイダーエレクトリック製MC12リニアモーションシステムで使用するコントローラーは、最大130軸まで制御可能なため、キャリアの制御以外にもロボットを同期制御してリニア搬送システム上のキャリアに追従させることができます。
5.2 リニア搬送システムとデジタルツインの組み合わせ
デジタルツインを使用することで、リニア搬送システムの実機を導入する前に、3Dで動きをシミュレーションすることができます。また、事前にプログラムをエミュレーションし、デバックを済ませておくことで、実機が導入されてからの現場での調整時間を短縮することができます。また、リニアと他の機械の同期制御の確認も、デジタルツイン上で実施することができます。
6. 製品紹介
6.1 シュナイダーエレクトリック製リニア搬送システム Lexium™ MC12
シュナイダーエレクトリック社のMC12は、高性能なリニア搬送システムです。柔軟な動き、高速搬送と高精度な停止を実現し、様々な製造ラインに対応できます。ループ型のレール上にリニアモーターで駆動する複数のキャリアを走らせ、ワークを独立して搬送・位置決めすることができます。ループ形状にすることで、設備を省スペース化したり、ループ内にロボットを設置することでローディングとアンローディングを1台のロボットで兼務するなど、よりシンプルな搬送設計に寄与します。また、アルミ素材を採用しているため、熱を逃しやすい構造となっており、Stop & Goの激しい使い方をしてもオーバーヒートすることなく、理想の動作が実現できます。熱に弱い医薬品や食品、包装資材の搬送にも適しています。シュナイダーエレクトリックはグローバル規模でサポート体制が整っております。様々なアプリケーションが可能な製品ですので、ぜひお問い合わせください。
6.2 デジタルツインソフトウェアスイートEcoStruxure™ Machine Expert Twin
EcoStruxure™ Machine Expert Twinは、実際の機械の 3Dモデルを作成するためのデジタルツインソフトウェアです。機械を作る前に、仮想設計、仮想試運転、アジャイル開発を開始することができ、機械、電気、制御の作業割り当ての並行エンジニアリングが可能になり、市場投入までの時間を最大50%、試運転時間を最大60%短縮できます。


