世界経済フォーラム(WEF)が主導する「ライトハウス」プロジェクトは、AIやIoT、ロボティクスなどの最新技術を活用し、製造業の効率と持続可能性を革新する先進的な工場を認定する取り組みです。
本記事では、ライトハウスの定義と選定基準を紹介し、事例や製造業の現状、国内の課題などを解説します。
目次:
ライトハウスとは
「ライトハウス(Lighthouse)」は先端技術を積極的に活用し、生産性の向上や品質の改善、コスト削減、環境負荷の低減などを実現している工場のことです。DXの推進を支援する目的のもと、世界経済フォーラムが2018年からスタートしたもので、毎年世界中の工場が選ばれています。
ライトハウスは他の製造業にとっての模範となる存在であり、文字通り「灯台」のように業界を照らす役割を果たしています。企業のブランドイメージ向上や投資家からの注目にもつながるとされているため、多くの企業がライトハウスを目指しています。
ライトハウスの選定基準
世界経済フォーラムは、4つの基準でライトハウスを選定しています。
- Connectedness (接続性):
- Agility & Flexibility (俊敏性と柔軟性)
- Workforce Transformation (従業員の変革)
- Sustainability & Circularity (持続可能性と循環性)
Connectednessでは、バリューチェーン全体をデジタル技術で繋ぎ、エンドツーエンドの可視性と俊敏性を確立しているかどうかが問われます。
Agility & Flexibilityで評価されるのは、需要変動や市場の変化に迅速に対応できる柔軟な生産システムを構築しているかどうかです。
Workforce Transformationでは、従業員のスキルアップや再教育に積極的に取り組み、新しい技術に対応できる人材を育成しているかどうかが重要です。
最後に、Sustainability & Circularityでは、環境負荷を低減し、資源効率を高める取り組みを行っているかが評価されます。
特に環境面で優れた取り組みを行っている工場は、「サステナビリティ・ライトハウス」として認定されます。サステナビリティ・ライトハウスは持続可能な製造業のモデルとなる工場として、他の企業をリードする役割を果たします。
中国にある工場が多く選出されている理由
中国は従来、「世界の工場」として安価な労働力と巨大な市場を活かした製造拠点としての地位を確立していました。しかし、現在は「中国製造2025」といった政策を通じてイノベーションを創出し、他国をリードする製造強国へ転換を図っています。この政策転換が、ライトハウス認定を目指す企業の増加を後押ししています。
さらに、世界最大の製造拠点として、巨大な国内市場と豊富な労働力を有しているのも中国にライトハウスが多い理由の一つです。また、中国の巨大な市場と成長ポテンシャルに期待したグローバル企業が積極的に投資を行っているのも一因といえるでしょう。
インドでも選出が増加している背景
インドでもライトハウスの数が顕著に増加しています。背景には、政府の政策推進や豊富なIT人材、グローバル企業の進出、そしてコスト競争力といった要因があります。
Hindustan Unilever(HUL)のソネパット工場とダパダ工場は、インドにおけるライトハウスの代表的な事例です。ソネパット工場ではデジタル技術を活用し、サービスの向上やコスト削減、環境負荷の軽減を実現しています。ダパダ工場でも、AIや高度な分析技術を駆使して効率を高め、環境への影響を低減しています。
さらに、シプラのインドール施設、ドクター・レディーズ・ラボラトリーズのハイデラバード施設、モンデリーズのスリシティ施設も、ライトハウスとして新たに追加されました。これらの施設はデジタル化や自動化、分析技術を駆使して、製造性能と持続可能性を向上させた点が評価されています。
ライトハウスに選定されている企業事例
ここではライトハウスに選定されている企業の事例を3つ紹介します。
7つの工場で11のライトハウス認定を受けているシュナイダーエレクトリック
シュナイダーエレクトリックは7つの工場で11のライトハウス認定を受けている企業です。工場はフランス、中国、アメリカ、インドネシア、インド、メキシコなどに位置し、それぞれ異なる分野で革新的な技術を導入しています。
特にフランス、アメリカ、インド、中国の4工場は、サステナビリティライトハウスに認定されており、世界25か所にあるサステナビリティライトハウスの中で最も多くの認定を持つ企業です。(2025年1月時点)
例えば、フランスのル・ヴォードルイユの工場では、IoTセンサーとクラウドベースの製造システムを導入し、エネルギー使用量を25%削減、材料廃棄を17%削減、CO2排出量を25%削減しました。
また、インドのハイデラバード工場では、予測・処方分析やAIディープラーニング、4IR統合技術を活用して事業成長率を54%向上させたほか、製造効率は9%向上、フィールド障害は48%削減、リードタイムは67%削減することに成功しています。
中国の無錫工場では、AIを活用したエコデザイン、サプライヤーとのクローズドループCO2追跡プラットフォーム、エネルギー効率を向上させる機械学習モデル、顧客と共同で開発した新しい循環型ビジネスモデルを通じて、同施設はスコープ1と2の排出量を90%、スコープ3の排出量を65%、水使用量を15%削減しました。これらはすべて2年間で達成されました。
デジタルツインを活用するドイツのBMWレーゲンスブルク工場
BMWグループのドイツ・レーゲンスブルク工場は、デジタルツイン技術の導入により、生産設備の計画を効率化しています。デジタルツインとは、物理的な工場の情報をサイバー空間に再現する技術です。デジタルツインの技術により、レーゲンスブルク工場は計画時間を30%削減しています。
さらに、BMW独自のIoTプラットフォーム「OMP(Open Manufacturing Platform)」を使用し、3,000台以上の機械や設備、ロボットを一元管理しています。結果として物流プロセスの簡素化と効率改善が可能となり、物流コストの削減と品質不良の減少を達成しました。
日本におけるライトハウスの事例
日本では、次の3工場がライトハウスとして認定されています。
- 日立製作所大みか工場
- P&G高崎工場
- GEヘルスケア日野工場
それぞれの取り組みを紹介します。
日立製作所大みか工場
日立の大みか事業所は、日本企業として初めてライトハウスに選出された工場です。評価された点は、社会インフラ情報制御システムの安定供給とバリューチェーン全体の最適化です。特に、IoTやデータ分析を活用した高効率生産モデルや自律分散フレームワークによるシステムの信頼性・拡張性向上、シミュレーション環境を用いた品質管理などが高く評価されています。
P&G高崎工場
P&G高崎工場は、国内で消費されるP&Gのファブリック & ホームケア製品をほぼすべて製造している工場です。バリューチェーン全体において、デジタルツインやデータコネクティビティ、AI、機械学習など、先進のデジタル・テクノロジーを活用しています。上記のような技術を用いて、操業停止日数の短縮化や流通業パートナーの発注利便性の向上などを実現したことが評価されています。
GEヘルスケア日野工場
GEヘルスケア・ジャパン株式会社の日野工場は、AIやIoT、ロボティクスなどの最新デジタル・テクノロジーを活用し、製造オペレーションやサプライチェーン全体の最適化を実現したことが評価されています。2016年には、世界に450ある自社工場の頂点「ベスト・ブリリアント・ファクトリー」の称号を得ています。
ライトハウスから見える製造業の現状
ライトハウスは先端技術を駆使し、製造業をリードする存在です。そのため、ライトハウスに選ばれた企業や選ばれる傾向などを詳しく見ると、製造業の現状が理解できるようになるでしょう。
製造業のデジタル革命と分業化
デジタル技術の進歩は製造業の参入障壁を下げ、製品設計やライン設計のノウハウがなくとも、デジタル技術や外部企業の活用により、新規参入する企業が増えています。
また、デジタルツイン技術により、設計や生産ライン設計が形式知化され、ノウハウがなくても製造が可能になっています。さらに、IoTプラットフォームやマッチング/シェアリング企業の登場により、水平分業が一層進展する見通しです。
AI技術の導入
世界経済フォーラムによると、多くのライトハウスが3〜6ヶ月という短期間でAI技術を導入しています。
AIの主な利用例として、インターネットからのフィードバック収集・分析による顧客インサイトの獲得や、デジタルツイン技術を使った生産の最適化が挙げられます。2024年には、UXの改善やアンケートの見直し、イベントの質向上などの活動が強化される見込みです。
また、対話型ツールを構築し、生成AIを導入することで、データの収集・分析がより効率的になると期待されています。
ライトハウスの現状から浮かび上がる国内製造業の課題
日本の製造業がデジタル革命に遅れを取る背景として、従来の熟練技能者に依存したアプローチやデジタルへの認識不足が挙げられます。また、サービスとソフトウェアの重要性が高まる中で、デジタル化へのコミットメントが不足していることも問題視されています。
上記の課題を克服するためには、政府の支援策や企業間の連携、人材育成プログラムの拡充など、多角的な取り組みが必要です。また、企業はデジタル技術の活用だけでなく、組織文化の変革にも取り組む必要があります。
ライトハウスの認定を受けたい
ライトハウス選定に向けて何から始めれば良いのか分からない、準備が不安というお客様向けに、シュナイダーエレクトリックはライトハウス選定への準備度測定から申請書類の作成、最終審査時のプレゼンサポートまで、包括的なサポートを提供します。
また、「データを集めたが、活用できていない」「ITとOTの連携がうまくいかない」「セキュリティ対策はどうすれば良いのか」といった悩みを抱える方も少なくありません。
工場DXを加速させ、ライトハウス選定を目指したいお客様には、自社工場で長年に渡り製造現場で培ったOT(制御・運用技術)の知見と、最先端のIT技術を融合させ、DX推進を強力に支援します。
私たちの最大の強みは、世界経済フォーラムから7工場にて11のライトハウス選定を受けている圧倒的な実績です。これは、DXは机上の空論ではなく、私たちが自らの変革を実践し、具体的な成果を上げてきた証です。
この強みを活かし、ライトハウス選定サポートからDX戦略策定、具体的なソリューション実装・運用までお客様と伴走し、変革の実現を力強くサポートいたします。
弊社サービスにご興味ある方は、当社の製造業向けDXサービスの詳細資料をダウンロードいただき、サービスをご確認ください。
ライトハウス企業の取り組みを学ぼう
ライトハウスはその名の通り、他の製造業における灯台となるものです。ライトハウス企業の取り組みを学び、実践することは、経済産業省が進めるスマートファクトリー化にとって大きく役立つでしょう。
ただし、具体的にどのような取り組みをするべきなのかは、工場や事業所によって異なります。大切なのは自社の課題と現状を把握し、適切な解決策を講じることです。DX化の選択を誤れば、業務の効率化につながらないどころか大きな損失になりかねません。
DXの推進について、具体的なアドバイスが欲しい方、現在の進め方に不安を感じる方は、シュナイダーエレクトリックにお任せください。シュナイダーエレクトリックは上述したとおり、7つの工場で10のライトハウス認定を取得している企業です。自社の経験と実績を元に、スマートでサステナブルな工場の実現だけでなく、工場のライトハウス選定のサポートにも対応した製造業向けDXサービスを提供しております。まずはお気軽にご相談ください。